メディアの連鎖反応が引き起こした「津波」

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2008-11-22

津波の発生源はこれ ↓

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元次官宅襲撃:事件6時間前にネット書き込み…犯行示唆(毎日新聞:ニュースセレクト)[Web魚拓] より
元厚生事務次官、吉原健二さんの妻靖子さんが刺された事件の約6時間前に、インターネット上のサイト「フリー百科事典・ウィキペディア」に犯行を示唆する書き込みがあったことが分かった。

ウィキペディアは百科事典のネット版で、誰でも新しく項目を追加したり、すでにある記事を自由に編集できるサイト。

書き込みがあったのは18日正午すぎ。「社会保険庁長官」という項目で、「歴代の社会保険庁長官」というタイトルのすぐ下に「×は暗殺された人物を表す。」という
ただし書きがあり、一覧表の中の吉原さんの名前の前に「×」がつけられていた。

 利用者の書き込み履歴によると、「Popons」と名乗る人物(筆者注:あくまでも書き込んだ人物のログインネームであり、犯人ではない)が、18日午後0時27分、「下村健」(故人)の前に「×」を記入。同29分には、この「×」を削除し、「吉原健二」の前に「×」を記入。タイトルの下の「×は暗殺された人物を表す。」は同32分に書き込まれた。

 同日午後11時の時点で、書き込みはすべて削除されている。アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できるとみられ、捜査本部は慎重に調べている。
 →
 何が問題なのかは、KoshianX氏の記述で一目瞭然 ↓

ログインネームは匿名でも偽名でもないことを知るべきだ(狐の王国) より
新聞では「事件6時間前に書き込み」とあるのだが、実はこの時刻表示がUTC(世界標準時)で、日本時間とは9時間のずれがある。つまり書き込まれたのは事件の3時間後ということになる。

まあここまではしょうがない。勘違いでしたで済む範囲だろうし、UTCを知らないということは無いだろうが、Wikipediaも時刻の隣にUTCと書いてるわけじゃないので、その点について責めるのはかわいそうだろう。

だが毎日新聞はやっちゃいけないことをやっちまった。それは書き込んだ人間のログインネームを紙面に載せちまった事だ。それも犯人扱いという最悪の形で。

おおかたネットについて何も知らない記者が書いたのだろうが、ログインネームは偽名でも匿名でも無いんだよ。
 → 単なる誤報ではなく、「書き込んだ人間のログインネームを紙面に載せちまった事」。パーソナリティがネット上だからといって、現実世界と切り離されている訳がない。

だが、誤報はこの後も、まるで津波が襲ってくるかのごとくテレビ局を巻き込んでいく。

フジテレビは「めざましテレビ」の中で新聞記事を紹介 ↓
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テレビ朝日は「やじうまプラス」の中で新聞記事を紹介 ↓
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テレビ朝日コメンテーター・三反園訓氏は件の記事を受けて、このようなコメントを発信 ↓
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「今回ですね、ネットに載ったということは・・・その、闇のつながりによってですね、犯行がもっともっと広がっていくんじゃないかと、それが心配されるんじゃないかと思うんですよね。」
闇のつながりって、そもそもどこにあるのだろうか?教えていただきたいものですが。っていうか「闇のつながり」を教えてgoogle先生!

日本テレビも「ズームイン!SUPER」の中で新聞記事を紹介 ↓
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読売テレビ解説委員・辛坊治郎氏は件の記事を受けて、このようなコメントを発信 ↓
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「ただし、これ(筆者注:書き込みの時刻が)昨日の昼なんですね。だから、山口さんが殺害された後ですから・・・もしかすると、犯人とは違う人物がある種『愉快犯』のように書き込んだ可能性も私は捨て切れないとは思いますが。ただWikipediaに関してはですね、書き込みと削除に関しては全部記録がしっかり残っていますんで、多分書き込んだ人物の特定はそんなに難しくないと思います。」
 → 誤報を紹介したことについては責任を免れないが、解説を文字に起こしてみると、事実関係と可能性については毎日新聞の記事を尊重しつつも鵜呑みにせず、峻別と抑制が効いているコメントだと感じる。(また、後日同じコーナーで毎日新聞のお詫び記事を紹介している。)

そして、何があったか知らないけれどTBSはスルー。

そんなこんなを経過して発信された毎日新聞の「おわび記事」がこれ ↓

おわび:「ネットに犯行示唆?」の記事について(毎日新聞:ニュースセレクト)
元厚生事務次官の吉原健二さんの妻靖子さんが宅配便を装った男に胸などを刺されて重傷を負った事件について19日未明、「ネットに犯行示唆?」などの見出しで、ネット版の百科事典「ウィキペディア」に犯行を予告するような書き込みがあったと報じましたが、書き込みの時刻は事件前ではなく、事件の報道後でした。おわびして訂正します。

おわび:「ネットに犯行示唆?」の見出しと記事=11月19日付朝刊(毎日新聞:ニュースセレクト)
 19日朝刊「ネットに犯行示唆?」の見出しと記事を掲載しましたが、書き込みがあった時刻は事件前ではなく、事件の報道後でした。おわびして訂正します。

 ネット上のサイト「フリー百科事典・ウィキペディア」に犯行示唆と受け取れる書き込みをしたとする人物が19日「たいへんなご迷惑をかけました。私の書き込みは事件後です」との文書を同サイト内に掲載しました。

 「ウィキペディア」に表示される更新日時は設定を変えない場合、自動的に日本時間より9時間遅れとなる「協定世界時(UTC)」になります。書き込み日時は11月18日午後0時27〜32分でしたが、UTC表記のため実際には9時間後、事件報道直後の午後9時半前後でした。本紙記者はその事実を把握しないまま記事にしました。
 → 「(Wikipediaに)犯行を示唆する書き込みがあった」と書き込んだ人物まで大々的に紹介したことについては「誤報」じゃないの?

端的に言えば ↓

ログインネームは匿名でも偽名でもないことを知るべきだ(狐の王国) より
謝るとこそこじゃねえよ!!!
 → だと思う。

さらにいえば、今回の「誤報」に関する分析については、「ガ島通信」の藤代氏曰く ↓

毎日新聞の誤報、ミスよりも深刻な社会部的な取材手法(ガ島通信) より
誤報やネットへのリテラシー不足よりも問題なのはその取材手法です。すでに消されてウェブ魚拓に残っている毎日の記事元次官宅襲撃:事件6時間前にネット書き込み…犯行示唆に『アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できるとみられ、捜査本部は慎重に調べている』という文面があります。これは、毎日報道「ネットに犯行示唆」は誤報という産経新聞の記事の『書き込みの内容は、参考情報として、捜査当局にも伝えていたという』で明らかなように、記者がウィキペディアの書き込みを見つけて警察に伝えて記事にしたものです。

警察は毎日の記者から情報を聞いたら「調べる」でしょうが、消されている記事をみてそのような意味としてとらえる読者は少ないでしょう。あいまいな記事の書き方はマスメディアにも警察にもメリットがあります。マスメディアは「捜査本部は調べている」とまるで情報主体が警察にあるように書くことで責任を回避できますし、警察は情報の非対称を利用して記者をコントロールすることが出来ます。
 → 悪く言えば、警察という「国家権力」と、それを監視する「メディア」の馴れ合いというか「癒着」ですね。
このようなマッチポンプは、社会的にインパクトのある凶悪事件のたびに繰り返されています。報道されていた目撃情報と逮捕者が違っていたということがありますが、それは記者が現場で見たことを警察に伝えて、否定しなければ「捜査本部は調べている」「捜査本部もこの情報を把握している」と書いているからです(例えば、神戸連続児童殺傷事件では、「黒いポリ袋を持った30-40歳代の中年の男性」「黒いブルーバード」という犯人像がさかんに報道された)。

このときに警察官が「警察の調べでも黒い車が目撃されているよ」と言うのはほどんとなく、「ほう」とか「なるほど」とか、単にうなずいているだけというのもあります。否定しなければGOサイン。「書き飛ばし(記者はスクープ合戦と思っているかもしれないが)」は無責任な報道や警察との癒着の温床になっており、ネットの知識がなくミスしたことよりも、よほど深刻な問題なのです。
 → この部分の記述は結構深刻なものを感じる。記者が警察の担当者に質問し、単なる「うなずき」が一転して「警察が否定せず」となり、否定しなければ「捜査本部は調べている」という「記事のGOサインになる。

毎日新聞のお詫び記事に関する詳細報道を、あえて産経新聞から引用すると ↓

【元厚生次官ら連続殺傷】毎日報道「ネットに犯行示唆」は誤報(産経新聞:ニュース・事件)
 元厚生事務次官の吉原健二さん(76)の妻、靖子さん(72)が刺されて重傷を負った事件で、毎日新聞は19日、事件の約6時間前にインターネット上に犯行を示唆する書き込みがあったと報じた19日付朝刊の報道が誤りだったとして、同社のウェブサイト「毎日jp」におわびを掲載した。19日付夕刊でおわびと経緯を掲載する。

 19日付記事では、18日正午ごろ、ネットの「フリー百科事典・ウィキペディア」の「社会保険庁長官」のページの中で、吉原さんの名前の前に「×」がつけられ、その下に「暗殺された人物」というただし書きがあったと報道。

 だが、実際の書き込みは事件から3時間ほど経過した後だったとみられることが、後になって判明した。

 毎日新聞社長室広報担当によると、取材を担当した記者が同サイトに掲載されていた、日本標準時より9時間遅い「協定世界時」による編集時刻を、日本時間と誤認したことが原因。

 書き込みの内容は、参考情報として、捜査当局にも伝えていたという。

 記事は東京、大阪で発行された最終版にそれぞれ掲載されたほか、一時「毎日jp」にも掲載されたが、間もなく削除した。

 ネット上では、ウィキペディアに問題の書き込みをしたとする人物が名乗り出て、「書き込みは事件後」と弁明するなどしたことから、誤報の可能性を指摘する声が噴出し、大きな騒ぎとなっていた
 → 参考情報として伝えていたものが、いつのまにか「犯行を示唆する書き込み」に。

この記述を踏まえて、当初の報道について「起」「結」を読み直すと ↓

元厚生事務次官、吉原健二さんの妻靖子さんが刺された事件の約6時間前に、インターネット上のサイト「フリー百科事典・ウィキペディア」に犯行を示唆する書き込みがあったことが分かった。

(中略)

 同日午後11時の時点で、書き込みはすべて削除されている。アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できるとみられ、捜査本部は慎重に調べている。
 → マッチポンプが引き起こしたという次元では済まない、背筋が凍りつくような恐ろしさを感じる。

  記者が見つけたひとつのネタ。
    記者のネタが警察にぶつけられ、
      警察の担当者がそれを否定せず、
        デスクが、ネタの裏づけなどを念のために確認し、
          校閲が記事の内容を確認し、間違いがないと判断すれば
            即ち、それは警察が『慎重に捜査を進めている」という文章に。
              新聞はそこから印刷され、物流に乗り、各家庭や店頭に並んでいく。
                それだけではない、テレビメディアがその記事を2次利用して発信される。

 そのネタに、実は「間違い、ミス、ノイズ」があったとしたら?
 テレビでそのまま報道されたとしたら?記事を鵜呑みにされて、適当な「コメント」が流れてしまったら?

 むしろ、その間違いすら「黙殺」されたとしたら?


波は決して、一方向には流れない。物にぶつかり、反射され、いろいろな方向に拡散していく。

毎日新聞が起こした誤報は、既存の「チェック機能」という堤防を突き崩し、あらゆるメディアを介して「津波」を引き起こした。

その反射は、メディア自身に跳ね返ってきたのだ。

そこに、今までの「お詫び」という、普段使っている消波ブロックが持ちこたえられるのか?そもそも、その消波ブロック は疲弊していないのか?見直しもないまま、津波は今メディアに降りかかり、強烈な潮流に巻き込まれている。

彼らが飲まれているかどうかを、客観的に判断できないままに。

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